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君に恋した七日間

.31 2016 君に恋した七日間 comment(0) trackback(0)
 ――それまでの僕は、多分、迷っていた。生きることに、戸惑いを感じていた。何故生きるのか、何のために生きるのか、たった一つの真実は見出せないその難問に、独りぼっちで向き合っていた。

 叔母がこっちに引っ越して来た。事の発端は、そんな些細なことだった。生まれてすぐの頃に会った(何だかその言い方にも疑問を感じる)だけだから、ほとんど見ず知らずの他人状態だったし、出来れば関わらずに済みたかったものの、折角だから新居に遊びに来て欲しいと誘われ、母さんと一緒に叔母の家を訪ねた。そして、君に会った。
 姉妹でこんなにも生活が変わるのか、と思うほど叔母の家は大きく、二台の外車が柵越しに見えた時点で、僕は何だか帰りたくて仕方なかった。
 玄関、が既に僕の部屋より広くて、それなのに靴が一足も見当たらない。本当に叔母と母さんとは血が繋がっているんだろうか、と一瞬本気で考えた。
 案内されるまま廊下を歩き始めようとした瞬間だった。
 君のピアノが、聞こえたんだ。
 母さんと叔母は僕を置き去りにしてその音色をきっかけに話し始めた。事情の分からない僕は、いったい誰がピアノを弾いているんだろうと、耳を傾けることに集中した。
 音楽に明るくない僕には、そのメロディが誰の手によるものなのか分からなかった。交響曲第九なんかならともかく、小中学校で耳にしたような曲以外は、まったく分からない。
 それでも、弾き手が優れていることだけは、鍛えられていない僕の耳でもハッキリと感じられた。
「そうだわ、折角だから、優羽君、花実と話してらっしゃいよ」
 唐突に名前を呼ばれたせいで、僕はビクッとした。
 どうやら、叔母は母さんと水入らずで話したかったのか、あれよあれよと言う間に、僕はそのピアノの弾き手――かさね、と聞こえたけど、どんな字を書くのかさっぱりだった――のいる部屋へ通され、部屋に入ったかと思うと、あっさりと置いて行かれた。
 見知らぬ人と二人きりでどうしろと言うんだ、と内心大声で叫びながら、どうせ僕にはそんなことを言える勇気なんて無いし、と自嘲して、諦めて部屋の内観に目をやった。極力、そこにいる誰かさんのことは意識しないようにして。
 でも、それが気に入らなかったのか、向こうから話しかけられてしまった。
「挨拶くらいしたら?」
 声の主に、自然と目が行く。
 でも目線は、合わなかった。
 薄幸の、という言葉が相応しいと思えるほど、華奢で、真っ白で、長い黒髪を真っ直ぐに垂らした女の子だった。ピアノの前に座って、僕の方、ではなく、譜面の方に目をやっている。
「え、えっと、こ、こんにちは?」
 生まれてこの方、女子と接するのに緊張したことは無かったけど、この時の僕の声がうわずったのは、多分、僕が機嫌を損ねた相手に接するのが苦手だからだと思う。
 僕の言葉を受けて、君はようやく、僕の方を向いた。
「こんにちは、って、そんなに堅苦しく挨拶されたら、この後がやりにくいよ」
「挨拶しろって言ったのは、そっちの方なんだけど……」
 第一声が少し堅かったから、「やりにくいわよ」なんて女言葉が続くと思ったら、そんなことはなく、そのおかげか、返しとして出た僕の言葉も、それなりにほぐれたものになった。
「突然入って来たかと思ったら、私なんていない、みたいな対応の仕方するから」
「僕だって突然だったんだよ。僕はてっきり、母さんと一緒に叔母さんと話してるもんだと思ってたから」
「ああ、なるほど……。お母さんのせい……。入って来た瞬間は、ピアノ弾いてて気付かなかった」
「ごめん、びっくりさせた?」
 自然と続く会話。君とは、初めのやり取り以外は、初めて会ったような気がしなかった。
「ううん、大丈夫。私、あんまり驚かないタイプだし。えっと、優羽、だったっけ?」
 叔母に話を聞いていたのか、君は僕の名前を知っていた。別におかしくもない話だけど、何故だかそれが、嬉しく思えた。
「かさね、さん、だよね?」
「同い年だから、花実で良いよ」
「かさね、って、どういう字?」
「花に、実る、って書いて、花実。みんな普通ははなみ、って読んじゃうんだけど、まあ、音から入ったら、そんなこと無いよね」
 おかしそうに笑う君。その様子が明るくて、君が何を抱えて生きているかなんて、この時の僕は、考えもしなかった。
「いとこ、で良いのかな、僕たち」
「法律上はそうなる、のかな。わかんない。私、お母さんの実の子どもじゃないから」
「どういうこと?」
 いとこがいる、なんてことは、一度も聞いたことが無くて、いとこ、ってどんな存在なんだろう、とずっと思っていた。だから、法の上でどんな立場にいたとしても、僕には、君がいとこだとは、後から考えても、思えない。
「私、連れ子なんだ。お父さん、結構前に亡くなっちゃったけど。結婚式も挙げてないし、親戚にもほとんど、話もしてないみたいだから、知らなくて当然」
「そ、そうなんだ」
「そんな顔しないで。別に、だからって悲しい境遇にあるな、とか思わないし、今日知り合った同い年、っていうごく普通の認識で接して」
 君は自分の立場については、本当にどうとも思っていなかったみたいで、けろっと話す様子からも、それは本当に近いと感じられた。
「あっ、ごめんね、立ちっぱなしじゃ疲れるよね。椅子、取ってくるよ」
 君がパッと目を向けた先、無造作に置かれた白いウッドチェアがあって、僕は君が動こうとしたのを、「僕がするよ」と遮った。
 ピアノのすぐ近く、君と程良い距離を開けて座った僕。そんな僕を不思議そうに見つめる君は、フタをしたピアノの上に両腕を置いて、それを枕みたいにして頭を乗せた。
「どれくらいの時間、こうしてたら良いんだろうね?」
 何だか君は、酷く退屈そうだった。鼻から下は腕枕に埋もれていて、瞳だけが寂しそうに僕を見る。
「さあ……母さんと叔母さんがどのくらい話し込むのか、僕には分からないし」
「ねえ、どっか行こっか」
「へっ?」
「行こう。お母さんには書き置きしとけば良いし。ほら、早くっ」
 座ったばかりなのに、あれよあれよという間に立たされて(それはどこか、叔母にこの部屋に放り込まれた時に似ていた)、彼女に連れられるまま、僕は叔母の家を出た。
 この時、君と一緒に外に出たのが、僕であって良かったと思う。その相手に、僕が選ばれたことが、僕にとっては、とても嬉しいことだった。
 そう感じるようになるのは、まだ先のことだけど、抵抗しなかったことを、後になって、どれほど良かったと思ったことか。
 そんな風にして、僕は、君に恋する道へと、踏み入れた。
 偶然だったかもしれないし、運命、なんて言葉を使ったら、君に笑われそうだけど、僕はそれを、どこか必然めいたものに、感じたいと思う。
 僕と君が出逢えたことには、確かな意味があって、その意味のために、僕らは出逢う必要があった。
 そう、思いたいんだ。


めっちゃ長くなって、書くのに疲れて、場所を変えた(わけではない)。

今回も、あとがきは最後に回します。
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