スポンサーサイト

.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

アッシュウェイ通りの古書店

.26 2016 .+*ショートノベル*+. comment(0) trackback(0)
 その古書店は、生まれた時からあった。
 小さな黒い丸めがねをかけた、白髪のお爺さんが一人でやっているお店で、古書店だと言うのに、見たことも無い大陸が描かれた世界地図や、何十年置かれていたんだろう、と思うほどホコリの積もった地球儀、博物館に展示されていたのを見たことがある、中世の騎士とかが身に付けていた甲冑なんかが、古書よりも大きなスペースを占めていた。
 お爺さんはいつもロッキングチェアに座っていて、大きな声で呼ばないと、レジの所まで来てくれない。お釣りが出るとしても、請求しないとそのまま椅子の所まで帰ってしまいそうになるし、それを伝えるのも一苦労だから、馴染みの客は値段ぴったりで払うのが暗黙の了解みたいになっていた。
 つい先日ベストセラーになったようなハードカバーから、一体全体誰が売りに来たのか、何処かの宮廷に置いてあったかのような、絢爛豪華な装丁で、タイトルが古文で記された分厚い本まで、多岐にわたる古書があるけれど、同じ本は絶対に見つからないというのが、まことしやかに流されている噂で、それがこの古書店の謎であり、魅力の所以だった。
 試しに、一冊位置を覚えて店を出た後、半日経ってまた行ってみると、本当に見つからず、お爺さんにそのことを尋ねてみると、ついさっき来た客が買って行ったのだと教えられた。勿論、それを聞き出すのに散々苦労したことは、言うまでもない。
 そんな不思議な古書店が、店仕舞いをする日がやって来た。
 何でも、お爺さんには一人息子がいたものの、お店を継ぐ気は一切無いらしく、そもそもお爺さん自身はお店そのものに何の思い入れも無かったそうで、知人に経営を任された後、ずるずると続けていただけだったという。
 それでも、ここを馴染み深く感じる客は多くて、最後の日には、いつも以上に店内がごった返した。その日は、入り用があって行くのが閉店間際になってしまって、着いた頃にはほとんど本が残されていない状況だった。
 選ぶ余地も無いほど少ない中で、一番分厚い本を手に取って、値段ぴったりにお金を用意した後、お爺さんに声かけた。
 今までありがとうございましたと、礼を言ってみたものの、お爺さんは特に反応も無くて、それが何だか寂しくて、お店を出てから、今度はお店に向かって、もう一度お礼を言ってみた。お爺さん同様、反応は無かったけれど、すっきりはしたように思えた。
 それからすぐ、古書店は取り壊されて、後には花屋が出来た。そこで働く人たちは、みんな若い女の人で、花にはあまり興味が無かったから、ぱたりと足を運ばなくなった。アッシュウェイ通りには、古書店を目当てに行っていただけだから、通りそのものにも、段々足が遠ざかっていった。
 随分と間を開けてから、アッシュウェイ通りに赴く用事があって、久々にやって来ると、そこはもう、見知らぬ所に成り代わっていた。古書店だった所までの道のりは、頭では分かっていたはずなのに、驚くことに、後に出来た花屋を見つけることは出来ず、通りの端から端まで歩いても、ついぞ分からなかった。
 花屋は潰れてしまったんだろうかと勘繰っても、それを確かめる手段は無かった。それと同時に、あの古書店こそが、自分にとってここにいる意味で、それが無い今、ここは自分の来るべき所ではないんだと思った。
 時は流れ行く。
 あの古書店が、懐かしい。


久々に小説を書きました。

思い出の地、思い出の建物、あると思います。
俺はそれほど年を食っていませんが、それでも二、三年ほど経ってから以前足繁く行っていた所を訪れたりすると、あるはずのものが無かったりして、それだけで、もう足を踏み入れてはならないような気にさせられます。

させられます。

多分。

( ˙꒳​˙ )多分ね。

小説を書くのに頑張りを込めると、書いた後は脱け殻になります。

おやすみなさい。また明日。
スポンサーサイト

  • comment
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://miyutayu.blog.fc2.com/tb.php/1141-6ddc1f61
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。