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Similarity

.03 2013 .+*ショートノベル*+. comment(0) trackback(0)
 同じ名前。
 姿も、そのもののような気がしました。
 僕を見て微笑んでくれる仕草が、かつて見たそれと重なります。
 気がついた時には、この人は僕の腕の中にいました。
 そして僕は、泣きました。
 この人に気取られないように。
 静かに、涙をこぼしました。
 ああ、僕はなんて愚かなんだろうと。
 僕は瞳の中にこの人を映しながら、この人を見てはいなかったのです。
 どうして人は名を得たのでしょう。
 その名を呼んだ瞬間から、僕はその人を認識する手立ての一つとしてそれを使うのです。
 だから名前には、最初の想いが、含まれてしまうのでしょう。
 好きな人。嫌いな人。親しい人。苦手な人。
 名前は僕とその人との距離を示すための指標となるのです。
 だから二人目は、とても悲しい。
 僕が反芻するその名は、あの人のものであって、彼女のものではないのです。
 それを知りながら、あの人の面影をこの人の中に見出そうとしている僕は、なんて残虐なのでしょう。
 名を知った刹那、僕は人を愛し、人を憎みます。
 どれだけ短絡的で浅はかであろうと、そうならざるを得ないのです。
 その名は、僕が幾度となく口にしたのですから。
 僕が口元をその形に歪める度に、きっかけを得たように僕の脳はあの人の顔を思い出させます。
「やはり、あなたは私を見ていないんですね」
 ふと、声がしました。
 この人の声は、あの人とはまるで違いました。何度も聞いたことがあるはずなのに、それが違うと思えたのは、今日が初めてでした。
 あの人の声がふわりと舞い踊る百合のようならば、彼女の声は静かに微笑む菫のようでした。
「それはとても失礼なことですよ」
 だから――
「だから、私を見て下さい。私はあなたの思い描くその人と同じではないんですから。私は似ているだけの、全くの赤の他人。そう分かった上で、私を見て下さい」
 あの人を忘れて、この人をその名の新たな持ち主として認識出来るようになれるなら。
「そうでないと、私だけが負けてるみたいじゃないですか」
 僕は口を開きました。漏れだしたのは、情けない言葉の端切れでしかありませんでした。
「すぐにとは言いません。あなたの心に、私のことをゆっくりと、けれど深く刻み込んで下さいな」
 ああ、この人は、似ている。
 似ているけれど、違う人、なんですね。
「覚えていますか? 私があなたと初めて逢った時、私はあなたと幾らか言葉を交えましたが、その時、お互いの顔は見ていない、ということを」
 この人を初めて見た日。
 それは、雨の日でした。
 大雨の中、バスを待つ私に声をかけてきたのが、この人でした。
 お互い傘を差していて、顔を見ることはなかったと、今になって思い出しました。
「あの日を始まりとするなら、あなたも、私も、真っ白な状態からの始まりだとは思いませんか?」
 この人は、ああ、この人は……。
 その時僕の心は、一面の白でした。
 そこに、ほのかに薄い赤が差し、全てを彩ります。
「   」
 僕はこの時になってようやく、この人に話しかけるために、その名を口にしました。
「はい」
 この人を、いつか。
「僕にあなたを、愛させて下さい」
「ええ、喜んで」
 心から抱きしめられるように。
 だからこれからは、僕はこの人の名前を、この人の顔を思い浮かべながら口にしようと、決めました。


お待たせしました!
最新ショートノベルです。
昨日の英語の詩もそこそこに反響がよかったので、ほっとしました。

さて、今作はつい先日、初恋の人と同じ名前の人に出逢ったのがきっかけです。
もちろんこれはフィクションなので、実際にバス停で声をかけてくれた人を好きになったりだのはしてません。
アイデアを得たのはそんなエピソードからなんですが、実はというと、メインにしたかったのは〝その名を呼んだ瞬間から、僕はその人を認識する手立ての一つとしてそれを使うのです。〟の部分から始まる一節です。
俺は人を苗字で呼ぶ人なので(それについてのエピソードも今度小説家何かにしたためようと思いますが)、既に知っている苗字の人に出逢うと、自然と最初に出逢った、あるいは、一番印象の強かった人のことを思い浮かべます。
それって、きっと良くないことなんでしょうけど、イメージとして、思っちゃうんですよね。
だから苦手な苗字、の人がいたりします。その人には全然関係無いのに、避けようと思ってしまうんです。
だから多分、もし俺がある苗字の人と出逢ったら、きっと、とてつもない想いに駆られる気がします。
その名前は、俺の生き方を、大きく変えた人のものですが。
今回は少しあとがきが長くなってしまいましたが、名前には、俺は思い入れがとても激しくなる傾向があるみたいです。
皆さんにもあるいはその経験があるようなら、今作をもう一度読み返していただけたら良いかと思います。

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