スポンサーサイト

.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

It's a phantom.

.19 2013 .+*ショートノベル*+. comment(0) trackback(0)
夜以外で彼に会ったことはなかった。
今日はずっといてよ、そんなわがままを聞いてもらったことはなかった。
他に女がいるの? と聞いても頭を振るだけで、私からも何の証拠をつかめない。
日中は一切連絡がつかない。
電話はおろか、メールすら。
それなのに、夜になると、彼は決まってアパートを訪ねてくる。
七時より早くも遅くもなく、まるでそのためだけに生きていると思えるほどに。
彼の話は面白く、彼に話すとどんな辛さも忘れ去ることが出来た。
彼とは高校で出逢って、大学に入った時に一度別れた。それから二年して、彼が事故にあったという話だけを耳に挟んだ。
どんな事故なのか、彼は無事なのか、それ以上は何もわからなかった。後になって、事故を起こした側の人間が不祥事を起こせない身分の人間だったと風の噂に聞いた。
昔の恋人を頭の片隅で心配しながら過ごす日々は生きている心地がしなかった。
ああ、私はそれを昔と言いたくないんだ、と思った。
別れたきっかけは会えなくなるから、そんな理由だった。
浅かった私たちは、あっさりとバラバラになった。
女らしく、次の恋で上書きしてしまおうと考えて、手頃な男を探そうとした。
でも探せなかった。
あらゆる仕草に、彼の面影が映って見えた。
差し出されたその手に。ほがらかに笑い飛ばすその気さくさに。別れ際に向けられるその背中に。
彼が、朧げに映り込んだ。
程なくして、私は彼と再会した。
恋の続きを始めた。彼がどう思っていたかを考えることもなく、私たちはまた元の位置に収まった。
彼は夜以外に訪ねて来たことがなかったし、それは最初から徹底されていた。
最初のうちこそ薄情だの浅薄だの文句を浴びせかけたけど、次第に受け入れられるようになった。もとより動的な恋ではなかった。一緒にいるという事実だけがあれば良かったし、それはとても静かな恋だった。
愛せれば、それで良い。
愛を向けさえ出来れば、それで構わない。
薄情なのは、むしろ私だった。
だから、私たちの逢瀬は夜に限られた。
ある夜、彼は視線を一度も合わせてくれなかった。
その訳を尋ねた。
君が見えない、それだけ教えてくれた。
それが事実なのか、比喩なのかまでは分からなかった。
次の日も相変わらず来てくれたし、そのことを考える暇はなかった。
暇を与えなかったのかもしれない。
彼の語りは饒舌で、昼間の気だるさを全て持って行ってしまう。
僕は君の幸福維持装置だね、なんて言葉がただの冗談だと思った。
そんな歪な日々を送るうち、ようやく事故の顛末を知る機会に巡り合った。
彼は亡くなっていた。その事実はもみ消され、事故のすぐ後、彼はその場を離れてしまって行方知れずになった、なんて正当性の欠片もない記録だけが残されたらしかった。
だとしたら、私に会いにくる彼は、何なのだろう。
幾日も幾日も逡巡を繰り返した。
ねえ、から始まる切り出し方ばかり考えた。
それでも、パンドラが箱を開けなかったというアレンジが有り得なかったように、私は彼の秘密に手を伸ばした。
ねえ、聞きたいことがあるの、と最初の案に従って。
ああ、僕は幻だよ、君が振り払いたい一番の可能性さ。あっさりと。
別れるなら、ちょうど今なんじゃないかな。悪魔の微笑をたたえて。
瞳の奥に、本当の想いが見えた。
「そうね。別れても、また惹かれるだろうけど」
悪魔と取り引きするのはこれが初めてだったはずなのに、とてもそうだと思えないほど上手くやれた気がした。
私が惹かれた貴方は、形ではないのね、と。
幻影に、キスをした。
私が好きなのは、彼の本質。輪廻も転生もないこの時代でも、だからこそ私は貴方に恋をする。何度でも、何度でも。
たとえそれが、人として薄情であっても。
私が見つめるのは、名もなきファントム。
それじゃあ、僕は帰るよ。
ええ、また明日。
朝が来る。
私はまた、恋をするだろう。
この世界にあふれる、彼に。


公開することを忘れて眠っていた作品、そんなものがiPhoneやMacの中にはたくさん眠っています。
あるいは、公開するつもりで書いていたのに、公開したくなくなった作品もあります。

何故こんな作品が生まれたのか、俺には記憶がありません。
この作品を書いていた記憶。それは鮮明にあります。ただ、こういった系統の作品であるのに、何故か朝に書いていたんです。
夜の暗い心情がこの作品を産んだわけではないようです。

さて、お読みになった方は思われたでしょうが、いつにも増して何が何だかな作品です。
正直、読み返しても俺もこの作品の真髄を掴めずにいます。
書き上げた瞬間に既に俺の手を離れて歩いていたんでしょうか。

一応、薄ぼんやりとは分かったんですが。

本質。最近はこの言葉がマイブームです。
本質に迫る。その真髄に近付く。
探究とはその行為を指すのでしょうが、だとしても時にそれはつついてはいけない罠なのかもしれません。
万人がそうではありません。ルックスで大切な人を大切な人と認識する人もいるでしょう。こんな数多の作品を書いていて難ですが、俺にも容姿を重視する部分があります。
でももし、人の本質を好こうとする人がいれば。
そこに肉体の必要は、あるのでしょうか。
不道徳だ、非道だ。そんな気もします。身体あって人間だと言っても良い気がします。
だとしても、その人の本質を好きになってしまっていたら……?
あまりにも同じココロを持つ人を、好きにならずに、いられるのでしょうか?
美談とも言えそうなほど綺麗な響きのする〝本質を好きになる〟ということ。
けれどそれは、踏み込んではいけない禁断の領域なのかもしれません。

感想などコメント欄にお書きいただけると嬉しいです
スポンサーサイト

  • comment
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://miyutayu.blog.fc2.com/tb.php/417-e2f82af1
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。