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私を愛した人

.13 2013 .+*ショートノベル*+. comment(0) trackback(0)
 処刑場に君が運ばれて行く。君の顔には後悔の念はカケラも見えなかった。
 むしろ一種清々しそうな色さえ見せていた。

 昨日の晩、私に彼と話す最後の機会が与えられた。
「……元気にしてた?」
 死刑囚にかける言葉として、これほど不釣り合いなものはなかったただろう。
 けれど、「ねえ、どうしてあんなことをしたの?」とは聞けなかった。そんなことを聞いたら、私は――
「どうしてあんなことをしたかは聞かないんですね」
 それなのに、見透かされていた。
「聞かれなくても答えます。僕は、あなたを守りたかった。ただ、それだけなんです」
 彼の瞳に私は映っていなかった。少なくとも私はそう感じた。
「ねえ、私を通して君は、何を見ているの?」
 怖かった。私は守られるべき人じゃない。君が死ぬ程の価値のある人間じゃない。口にするのを必死にこらえた。
「私は君にとって、何なの……?」
「光ですよ。希望です。信仰心を持っている人にとっての信仰の対象。それと似たようなものです。決して穢されてはならない、絶対不可侵な存在なんです」
「どうして、それが、私……」
「あなたはきっと、あなたのことが好きじゃないんですね。でも僕はあなたが好きだ。あれもこれも、全て僕がしたいと思ってしたことです。究極のことを言えば、僕はあなたが好きでいられたなら、それで良いくらいです」
 分からなかった。私も確かに君のことを好きでいるけれど、自分の命を賭してまで愛せるかと尋ねられたら首を縦に振れる自信なんてまるで無い。
「あなたは多分、どうして僕があなたのことを全てを投げ打ってまで想うのか、それについても分かっていないと思います。でもそれって、僕にも確かな証拠があって出来てることじゃないですよ。僕がどうしてここまであなたを愛しているのか、その理由について何か確固たる出来事があったなら、今ここで見せたいくらいです。でも、それも出来ませんから。ただ僕は、昨日もあなたのことを誰より愛していた、だから今日は昨日以上に愛する、それだけなんです」
 ひどいことを言って嫌いになってもらいたいとさえ思った。君にはきっと私以外にもっと愛すべき人がいた。その人はおそらく、君に注がれた分だけの愛を返してあげられる人だ。でも私は何も言えなかった。その愛をひたすらに貪り続けて来た私が、君の愛を最後まで享受していたいと叫ぶ。
「一つお願いがあるんですが、聞いてもらえますか?」
 頷く。私がどんなことをしても君の意志は変わらないと思ったから。
「僕が絶命する最期の瞬間まで、あなたのことを想わせて欲しいんです」
 死後まで、とは言いません。あなたを縛るのは僕の本意ではないですから、そう付け加えて。
「どうして、どうして、そんなにも私のことをっ!」
 私には君に愛されるような資格、無いのにっ――
「初めてあなたを好きになった日のことを、僕は覚えていません。いつからあなたを好きでいたのか、僕には日記をつける習慣なんてありませんから、分かりません。でもそのおかげで、生まれた時から、あなたのことを好きだった気さえするんです。おかしい話ですけどね。僕はずっとあなたのことを好きだった。本能みたいに。あなたのことを愛するために僕は生まれて来た、今はもうそう思っています」
 だから。
「あなたのことを、どうか最後まで、愛させて下さい」
 透明な窓の向こうの君は泣いていた。決して泣かなかった君が泣いていた。

「何か言い残すことは?」
「ありません」
 君の目は嘘をついていた。
 君の最後の願い。そこには、死後は私を苦しめないように、という愛が込められていた。今際の際に何も言わないのは、それが私の心に引っかからないように、そんな配慮があるからだと思った。
「目を瞑れ」
 君の処刑法はギロチン刑だった。
 ギロチン台に首を乗せた君に、銀の刃が落ちる。
 私は何も言わなかった。
 けれど目をそらすこともなかった。
 私を何より愛した人が逝くのを見つめた。
 その首に誰より早く辿り着けるように。
 君の首が落ちる。私はそれを抱きとめる。
 君が私を神の如く見ていたのなら、君を天国に運ぶのは、私の役目だと思うから。

 君が私に教えてくれたこと。
 それは、愛する、ということ。


抽象的な作品(以前のものだと『自由落下の少女』)をここで一つ。
愛することに理由とか打算とか、時々ないことがあります。
どうして好きかなんて、自分にさえ分からない。
ただどうしようもなく、好き。
その愛を貫くためなら自身がどうなったって構わない。
世界がその愛の姿勢は間違っていると否定しても、その愛が突き動かすものだけに従う。
だからどうして好きかなんて、聞かないでくれ。

ただひたすらに、好きなんだ。
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