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初めての冬

.11 2014 .+*ショートノベル*+. comment(0) trackback(0)
 夕飯を買いに家を出た。
 記録的豪雪だっていうのに、俺は何も恐れずに家を出た。
 実家じゃこんな雪は当たり前だった。グループ会話でも俺だけが「夕飯何にすりゃ良いだろ」なんて書いていた。
「さみ……」
 呟きを拾ってくれる人はいない。
 あっちにいたらあいつに話していただろうか。
 結局こっちに来てからは連絡を取っていない。
 寂しさと寒さが一緒くたになってやって来る。
 吐いた息は白く、どこまでも先へと伸びた。
 一人暮らしを始めて、初めての冬。ろくに暖房器具も揃えておらず、急場凌ぎで手に入れた中古のヒーターの前に座る日々。光熱費のことを考えると、そうやすやすと手が伸びるわけでもなく、俺は思い切って外に出ることを決めた。それが理由。
 冬がこんなに寒いと思ったことは無かった。
 寒い寒いと言っていながら、俺の知っていた寒さは、秋の夜風と同じくらいでしかなかったんじゃないだろうかと疑った。
 思い出したかのように吹き付ける北風。どうせやるなら吹雪並みに息巻いて、外出させる気そのものを削いで欲しかった。
 夕飯はきっと、おでんになるだろう。そんな予感がしていた。
 今の暮らしに、脈絡と言ったものは存在しない。ただただ、訪れる事象に向き合って行くだけの日々。
 そのうちさみしさとか孤独感というものも、今日と一緒に置き去りにしてしまえないかと期待する。
 まだ春の訪れる兆しは無い。寒さだけが俺の傍に寄り添うのは、寂寥感を掻き立てるから嫌だ。
 個人的には、さみしい季節は秋よりも冬だ。冬の夜なんかは、もうどうしようもないほど独りであることを感じさせる。誰かとすれ違っても、大概俯いているか、マフラーに顔をうずめている。
 そうだ、マフラーを買うのも良いかもしれない。繋がりの薄さが、どうにも俺の購買欲を刺激するようだ。
 独り身にとって、買い物ほど心安らぐ時間は無い。自分の好きなものを、好きなだけ見ていられる。そこに誰かが入る余地も無いし、これだ、と決めたものをレジに持って行く時なんて、束の間の幸せを感じられる。
 ジャクジャクと新雪を踏みしめながら、最寄りのコンビニを目指す。つい今しがたすれ違った子どもは、誰かの足跡を歩くことをルールに決めていたようだ。俺はその逆だ。誰も通っていないところを歩きたい。誰かの後を歩きたくないとか思うから、こうして独りなのかもしれない。でも仕方ない。それが俺の性分だ。
 街灯の下には虫の姿は無かった。夏にでもなればあそこを名も知らぬチョウモドキが飛び交っていて、季節を感じさせるが、それはこの季節も同じようだ。
 余計なことばかり考えても、俺とコンビニとの距離は縮まらない。昨日大学で読んだ短編小説なら、この辺りでとっくに着いていたのに。
 携帯には新手の着信は無かった。もしかしたら、俺が返事を忘れているのかもしれない。いや、きっとそれは無いだろう。あれば今頃、そいつと箸をつついているだろうから。
 つくづく、目の悪いことは悪いことだらけだな、と思った。目が悪いから前に座る、そうすると十中八九真面目な生徒だと思われて、敬遠される。よして欲しい。後ろに座ると白板の文字がまるで見えないから、仕方なく前に座っているだけだ。それが関係あるかはともかく、前期の成績は良かったが。
 それからしばらく、最近メジャーデビューしたあるロックバンドの新譜についてああだこうだ考えて、ようやくコンビニにたどり着いた。店内に入ると、もわっとした生ぬるい空気が俺を包んだ。ヒーターの方がマシだと感じる。
 俺は予見通り、おでんの売り場の前へ直行した。仕送りのみで生きている大学生には、一銭たりとして脇にこぼしている余裕は無い。
 すみません、と声をかけて店員を呼ぶ。どことなく、初恋の人に似ている気がした。名前は全然違った。
 俺はゆでたまごとごぼ天、つみれにもちきんちゃくを頼んだ。それから付け加えるようにして、こんにゃくとはんぺんも頼んだ。これでは炭水化物が餅しかない。もう少し必要な気がして、俺はおにぎりを取って来たいので少し待って欲しいとお願いした。店員はにこやかな笑顔で対応してくれた。ともすると、明日も来るかもしれない。
 おにぎりの置いてある棚には、おかかと鮭、ツナマヨネーズが一つずつ残っていた。ここで選ばれた奴が、廃棄処分を免れるんだと考えると、どれも選んでやりたい気がした。偽善的だと思った。たかがおにぎり如きで。
 結局ツナマヨネーズを選んだ。おでんに合うかは知らない。
 支払いの段階になって、その店員が少し表情を歪めた。
 どうかしたのかと尋ねると、お預かりの部分の桁を一つうち間違えてしまった、と返された。あたふたしている様子は、どことなく可愛らしくて、別段責める気も起きなかった。癇癪持ちだと、ここでも怒るものなんだろうか。
 構わないと答えて、何故かレシートも捨てないで、手渡されたレジ袋の中に入れた。
 店を出ると、また雪が降り出していて、こりゃ明日は積もるなと感じずにいられなかった。
 帰り道には何か立ち止まる要素も無く、行きの時間が嘘だと思うほどにあっさりと帰り着いてしまった。
 鍵を開け、部屋に入る。もちろん、迎え入れてくれる人はいない。もしかすると、俺はそのうち猫でも飼うかもしれない。猫はお出迎えしてくれないらしいが、犬よりずっと好きだから。
 ふぅ、とため息をついて、鍵を下駄箱の上に置く。
 廊下を抜け、手も洗わずにヒーターのスイッチを入れ、その前に座った。
「あったけ……」
 何もない天井を見た。
 初めての冬。独りの冬。
 でも少なくとも今日は、良い日だと思った。


冬に書き始めてたものなので、季節感は今とまったく違ってます。

俺は一人暮らししてませんが、してたらこんな生活だったのかな、とか思います。

習作として、特に風景の描写とか、意識してみました。

おでんが、食べたい。
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