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Can I? Should I? ~『The Bright Darkness』より~

.05 2014 .+*ショートノベル*+. comment(0) trackback(0)
「珍しいな。お前が弱音を吐くなんて。しかも、この俺に」
「聞きたくなければ今後一切しないさ」
 ただ、少なくとも今日ばかりは、聞いて欲しいと思った。他に頼れる者もいない。分かってくれるお前くらいになら、何らか光をもらえる気がした。
「お前は優秀だよ。優れてる。多分、俺なんかが真似したって、敵うはずないだろう」
「そりゃそうだろうな。俺はきっと、よく出来過ぎてんだ。怖いもの知らず、ってのはこのことだろーと思うわ。何たって日本で一番速い高校生、ってのに輝いたんだからな」
 そうやって笑うお前の中には、誰より積んだ努力と、誰にも知られず流した涙が溢れるほど入ってるんだろう。それを決して誇示せず、静かに増やし続けながら、今日も明日も、お前は先へ進んで行く。
 校門をくぐる度、視界に入るのは、〝祝、全国大会1位!〟の文字。間違いなく、この日本でお前より速い高校生はいないだろう。
 小学校一年生からずっと隣にいて、インドアに向かった俺と、アウトドアで戦ったお前。
 その差は何だっただろう。
 練習の量? 生き方? それとも、命運?
 俺は時折、お前が傍にいてくれること、居続けてくれることに、違和感すら覚えてしまう。
 心底嫌になる。身勝手な考えだ。
 足りなかった努力の量と、怠った鍛錬。何処までも、それでしかないことについて、それでも妬ましいと思い、疎ましく感じる。果ては、見下す存在を近くに置くことで、こいつはもっと先へ進む力でも得てるんじゃないだろうかと、考えてしまう始末だ。
「ケドさ、まあ、こー言って、通じんのかはしんねーけど、いつか限界が来た時、俺は自分がどーかんのか不安でしょーがねーよ」
「限界ってのは、アスリートとしてのか? とても今から考えるものでも無いと思うが」
 未来への沢山の選択肢。一つでも間違えば、どれほど偉大な選手であっても、没落して行くことに変わりはない。時宜に沿わない行動を取ったがために次の段階で踏み込めなかった人というのは、テレビでだってよく見かける。俺はそもそも、まずその時点にさえ、辿り着いて無いんだろうが。
「それでもやっぱ、考えらんねえではいられねえよ。大学入って、どっかの企業行って。続けられるとこまで行って、でもいつか、俺は誰かに抜かれんだろうな。それはよく分かってる。俺はいつかの最強だった。そんな風にしか言えねえ日が来んのは、すげー恐ろしい」
「そんなこと考えながら、お前は走ってたのか」
「いや、走ってる時とか別に考えねーよ。ただな、OBの先輩が来てる時とか、雑誌でインタビュー受けてるの読んだりした時とかさ、嫌でも考えずにはいられねえんだよ。後は、たまに夜寝る前とかもな。たまに」
「お前でも行き詰まる日が来る、のか。俄かには信じがたい話だが。でもやっぱり俺には、想像も出来ないな。詰まってばかりの俺の隣に、駆け抜け続けるお前がいる。一緒に歩いてるのに、こんなにも距離を感じる友人ってのは、少し、寂しささえ感じるよ」
 珍しいと言われた。そう、こんなことを言うのは珍しい。絶対的な勝者に敗者が口を聞こうなんて言うのは、自殺行為に等しいからだ。敗者は負けの理由をよく知っている。いかに自分に足りないか、よく知っている。それを最も端的に突き付けられるのが、勝者と対峙する時だ。
 だから大概の敗者っていうのは、どこかで見切りをつけて、達観したような立場を取る。
 悲観的に、冷笑的に、世間を斜めに見ることでせめて自分を保とうとする。人によってはそれを冷静だとか、落ち着いてるだとか、良いように見る。だが本来は、悲しいだけの慰めに過ぎない。
「もう既に、アメリカとかじゃ始まってるらしい」
「アメリカ?」
「若い内に特にスポーツで成功した人たちってのは、成長の過程で幾多のふるいにかけられ、淘汰されて行く。輝かしい表世界の華になれるのは、ごく僅か。そうやって地に膝付けてった奴らってのは、スポーツにのみ精魂注ぎ込んだせいで、社会に出て役に立つことは無い。精々、出来て重労働とか、頭をそこまで使わねー職業くらいだ。学問とか積んだり、専門技術磨いてった奴らに、人生の1/4が過ぎた辺りで、ドンドン追い抜かれて行くってさ」
「ああ、その話なら、俺も聞いたことがあるな。ジョックスとギーク、ナードの話だろう?」
「あー、そーゆーのは覚えてねえな。運動選手と、それ以外の人らとの、違いってくらいしか」
 どこまでお前は先を見据えて生きれてるんだ、そう思わずにはいられなかった。
 俺は明日を――いや、今日を生きるのでさえ全力を尽くしてこうだと言うのに。
「奢れる者も久しからずってのは、本当にそうかもしれねえな。いつか、どれだけ叫んでもどうしようもない日がやって来る。そう思ったら、恐ろしくてたまらねえよ」
「だったら、俺なんかは尚更どうしたら良いんだよ」
 夢も希望も抱けないような、弱い俺は。
「お前は小刻みに進んで行けよ。夢が無いわけじゃねえだろうが」
「それは――」
 そうだ。その通りだ。だが、俺の目指す世界は、実に険しく、苦しいことの連続だ。悲しいほどに、一握りの勝者に支配されてる。一過性の現象でもない。重鎮だけが食って行ける。後は死んでしまうしかない。そんな世界に、おいそれと飛び込める気がしない。あるいは、お前が今しているのより、ずっと、ずっと――
 悲しくなった。自分の方がいかに辛いか。それを天秤にかけて、自分の方が傾くのを見て喜ぶ。あまりに悲しみに満ちた、道化師の所業だ。
 その笑いが受けを取れるのは、それが一種職業柄であればこそだ。
 俺はただの何者でもない奴で、ピエロやジョーカーではない。
 だが、そうではないにも関わらず、俺は戯けて笑うことしか出来ない。
「俺が泣いた時に、俺の涙を拭ってくれる存在が必要だからな」
 さらっと口にするその言葉は、底無しに俺を信じているようで、今の俺にはとてつもなく、重い。お前は俺に、俺にその役目を託そうっていうのか? そう考えずにいられない。
「そのためにも、お前にも前に進んでもらわなきゃなんねえんだよ」
 成功者になれと。お前はただ漠然とそう言い放つ。冗談じゃない。冗談じゃなく身勝手だ。
 だが――
「本当に俺に任せて良いのか」
 お前の言葉なら、俺を前に向かせることが出来る。お前の言葉なら、立ち向かうくらいはさせる。
「俺に出来ると思ってるのか? 俺にそうすべきだって言いたいのか?」
 俺に出来るのか? 俺はそうすべきなのか?
「やるかやんないかは、お前が決めることだろ。ただ俺は、お前にやって欲しいと、そう言ってるだけだ。無理強いも、押し付けもしねえから」
 身勝手だ。何処までも何処までも。
 巧み過ぎる。
 そう、お前の物言いは、俺を駆り立てる。俺の中から、熱情を引き出して行く。
「でも、答えは今出してくれよ。そう、今だ」
 闘うのか。闘わないのか。
 闘って死ぬのか。闘わずして死ぬのか。
 闘って勝つのか。闘わずして負けるのか。
 天秤にかけるそれを、喜びに変えるために。
「俺が崩れ落ちた時、お前が強ければ、俺はきっと立ち上がれる。そして今、俺はお前を立ち上がらせる。持ちつ持たれつ、けど、俺は傷の舐め合いは好かねえから。引っ張り上げる支え方を選びたい」
 無茶苦茶な理論だ。だが、それゆえに、頼もしい。今は、この大きさに全ての信頼を寄せたい。
 俺に出来るのか? さあ、どうだろう。
 俺はそうすべきなのか? さあ、どうだろう。
 俺自身に問いかけても答えは出ない。当たり前だ。俺は未来を何一つ知らない。答えられるはずがない。
 だから、俺はお前に賭けてみようと思う。
 たから、俺は自分に賭けてみようと思う。
 出来るかは分からない。すべきかどうかも分からない。
 だが、明るいだけの道が、道でないと思うから。
 お前の進む道の先にさえ、既に影がちらついているくらいだ。
 俺の歩く道にはもっと多く暗雲が立ち込めている。
 だが、お前がいるから――そしていつか、お前が言うように、逆の立場になる日が来るんだろう――、そこには一筋の希望の光が差している。
 分かっていたのかもしれない。
 お前に頼ることが、最善の策だと。
 完全な闇に閉ざされるより先に、淡い光を求めて。
 今確かに、ここは暗闇だ。だが同時に、光を差し込むお前がいるから。
 お前がいるから。
 出来るかもしれない。すべきだったと悔やまずに済むかもしれない。
 考えを変えただけでは未来は変わらない。
 考えを変えただけで未来は変わる。
 そのどちらなんだろう。さあ、分からない。
 いずれにせよ、俺は――
「なら、今は俺を引っ張り上げてくれ。そうしてくれたなら、出来る限り俺は前に進む努力をしてみるから。いつか、お前が踏み留まった時には、手を差し伸べてやれるように」
「勿論だ。むしろ、結論に辿り着くまでにかかり過ぎたくらいだ」
 行く末に光が待つように、生きてみようと思う。

 お前の存在が、俺を支えてくれるから。


今回も『The Bright Darkness』より、ですが、ショートノベル単体としても十分読めるものに出来上がったのでこちらにも掲載。

俺はあまり、普段男と男の友情、みたいなのを書きません。
こういうこと、したことないので。
親友はいますが、こういったタイプの繋がりではないですね。
少し憧れます。

ライバルであり、親友であり、時として愛する人以上に、自分の人生に深く関わる人。
そういう関係も、今後新たに取り入れて行っても、良いのかもしれませんね。

ここで示したテーマについては、今回は深く触れないでおこうと思います。
あるいは、誰かの苦悩に、この作品が寄り添えるのであれば、吉ですね。
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