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.08 2015 .+*ショートノベル*+. comment(0) trackback(0)
 夢の中にいるのかもしれない。
 真っ白な世界には雪が降っていた。
 降り積もるような、やわらかい雪。
 雪と共に、記憶が浮かんでは消え、浮かんでは消えていた。
 六年前の自分。
 やさしい雪の日に、俺は悲しみの海に突き落とされた。
 俺のことを大切にしてくれている、そう信じていた人に。
 彼女の顔にはさみしさが見えた。
 だから責めることは出来なかった。
 ちょうどその頃に流行ったある曲みたく、俺もまた深い海の底に沈んで行った。
 日の光も見えないような、暗い世界に。
 深海は心地良かった。独りだけど、静かで、穏やかで。
 脅かす何かは無かった。
 なのに、俺の目には涙が浮かんでいた。
 好きだった。離れたくなかった。
 それでも、運命は俺から彼女を奪った。
 泣かない方がおかしかった。
 あれから一度も彼女の声は聞けなかった。
 たった一度だけ、勇気を出して彼女に電話をかけたことがあった。
 出て来たのは知らない男の人の声だった。
 間違い電話だと告げて、早々に電話を切った。
 あの日の涙の量が、俺の人生で一番だったように思う。
 涙を流す俺が塗料の剥がれた額縁の中に映っている。
 触れたら、声がした。
「なんで。なんで俺なんだ。なんで、俺から奪うんだ」
 鮮明に流れる声。
「こんなに真剣に、こんなに本気で愛してるのに」
 もう繋がらない電話。
 俺の愛した彼女は、どこに行ってしまったんだろう。
「もっと適当に生きてる奴の方が幸せになれるなんて、どう考えたって――」
 そんなこと無いって。
 分かってるくせに。
「おかしいじゃんかよ……」
 あの日がそれまでの俺が終わった日。
 転んで、躓いて、傷付いて、傷付けて。
 失敗と苦悩にまみれた日々を送り続けた。それでも、俺の歩いて来た道は緩やかな上り坂だった。上っているとさえ思えないような、あまりに緩やかだったけど。
 泣き虫になった。弱虫になった。
 たくさんの人に慰められた。たくさんの人を慰めた。たくさんの人に傷付けられた。たくさんの人を傷付けた。
 曲がりくねって、デコボコで、回り道ばかりの六年だった。
 だけど歩き続けた。生き続けた。
 そうしたら今になっていた。
 大切な人が出来た。今度はちゃんと、確信も持てる。盲信とか願望じゃなくて、お互いにちゃんと、本当は見せたく無いような部分まで見せ合えるような、そんな関係を築いた上での確信。
 時が経つのは早い。そうは思わない。苦しい時ほど朝が来るのが遅く感じられる。なのに、朝と昼はあっという間に過ぎる。もがき続けた時間、合計でどれくらいだろう。数千、数万? 過ぎてしまえばどれも同じ過去になってしまうけど、どれも同じ尺で思い出してしまうけど、それでも、俺には途方もない時間だった。
 この時の俺は、それほどの時間を、これから過ごすことになる。
 いつこのトンネルを抜け出られるだろう。そう考えながら。
 今の俺は知っている。入り口はあの日だ、ってハッキリ言えるのに、出口はあの日だ、ってハッキリ言えないこと。
 少しずつ、少しずつ、受け容れられるようになって。それを繰り返して行くうちに、苦しんでいたことが、それほど苦しまなくても大丈夫になって。最後には思い出したらチクリと胸が痛むけど、涙が出るほどじゃなくなる。それぞれの悩みによってそうなるための時間はまちまちだけど、たとえあまりに大きすぎるものだったとしても、最後には顔をしかめつつも面と向かえるようになる。
 だって、俺はそうしてここにいるから。
 真っ白な世界を俺は進んだ。
 真っ暗な部屋で天井を見ながら寝れない夜を嘆いた日。
 結露した窓を開いて寒空に彼女の今を尋ねた日。
 幸せそうな二人を見て目を背けた日。
 悲しい人と一緒に幸せな人を誹った日。
 どの日も俺は幸せとは無縁な表情をしていた。
 またそのイメージに触れた時、声がした。
「きっと俺は幸せにはなれない」
 それは口にした言葉? 心に浮かべた言葉?
 思い出せなかったけど、そう思っていたのは確かに覚えている。
 明日が見えないから、今日だけを見て未来のことまで考えて。
 本当に。過去は見えるのに未来が見えないのは、今の俺には嬉しいけど、あの時の俺には辛かっただろうな。
 それからも歩くと、ふいに、目の前にガラスで出来た透明な黒電話が現れた。
 使ったことなんて一度も無いのに、手は自然と動いた。
 そういや電話番号、あの時から変わってないな、なんて思いながら。
 呼び出し音。自分に電話をかけることなんて普通無いから、初めて聞いた。そうか、こんな音なんだ。どうでも良いことに気をやる余裕があった。
「もしもし」
 鼻をすする音。女々しいな。泣いてたんだ。
 甘えベタで、相談相手もちゃんと作れなかったひとりぼっちの俺。
 失くしてからは、独りきりで生きていると思っていた。
「調子はどう?」
「何だよ」
「まあまあ、答えてくれよ」
「最悪だよ。今こうして意味不明な電話までかかって来るくらいだしな」
「それは悪かったね。でも、切らないんだ」
「あんた、誰なんだよ」
「誰だと思う?」
「知らねえよ」
「そうトゲトゲするなって。俺は六年後のお前だよ」
「そうかよ」
 これは俺の夢かもしれないから、妙に聞き分けが良い。無粋な説明もしなくて良いのが助かる。
「六年後の俺は――」
 また鼻をすする音。
「幸せ、か?」
「幸せだよ」
「本当に?」
「本当に。今のお前じゃ想像もつかないくらい幸せだよ」
「嘘くさいな」
「俺がお前の立場だった時、同じ風に返したと思う。何言われても全部疑わしいもんな」
「恋人とか出来たのかよ」
「出来たよ」
「いつ出来るんだよ」
「それっていつお前が幸せになれるかって質問と同じ?」
 答えは返って来ない。
「ま、本当に大切な人と一緒になるってのは、その人が恋人なわけだから、結果的には幸せになるってのとイコールなんだけどさ、本当はお前、そんなことが聞きたいわけじゃないだろ?」
「六年後の俺はそんなに説教臭くなってるんだな。未来に希望が持てないな」
「はは、昔は絶対説教臭い年寄りにはなりたくない、なんて誓ってたのにな」
「それで。俺は本当に、本当に幸せになれるのかよ」
「なれるよ。もちろん、何もかもが幸せに変わることは無い。お前が抱えてる苦しみのうち、今でも結構触れたくないのもあったりする。だけど、総合的に判断した時、俺は幸せだから」
 でも俺がお前に何より言いたいことは未来への希望を持たせる言葉じゃない。
 俺がお前に本当に言いたいのは――
「生きろよ」
「は?」
「生きてなきゃ、幸せにはたどり着けないからな」
「そんなこと……」
「分かってる、そう考えてるだろうけどさ、それでも死にたくなる日がやって来る。幸せになれなくても、せめて今の苦しみから逃れようとする日が来る」
「お前はどうやって切り抜けたんだよ」
「足掻いたよ。死ぬ以外の、それからまあ、倫理にあんまり反しないありとあらゆることを使って。とにかく生きろ。生きることは残酷だ。それでも――」
 お前が俺になるためには――
「生きてなきゃ、幸せにはたどり着けない」
「……分かったよ。覚えとく」
 一瞬だった。
 俺の最後の言葉を聞き終えた刹那、視界がホワイトアウトしたかと思うと、そこは何気無い俺の部屋だった。
 隣には俺に幸せを感じさせてくれる人。
「お前の言葉があったから、俺は幸せになれたよ」
 ありがとうな。
 六年後の俺に向かって。
 一言、送った。


今日は思い切って二作品書いてみました!
衝動に駆られて。そういう感じです。
発想がどこから降って湧いたのか、つい数時間前のことですが忘れてしまいました笑
まあこう言うことを考えていたんだな、って感じです。

今から課題の山と格闘して来ます。
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